AIモデルは交換できる。EC企業が本当に持つべき資産は業務データだ
生成AIの進化はとにかく速い。昨日まで最先端だったAIモデルが、数か月後には別のモデルに追い抜かれている。EC企業の中には、「どのAIを使うべきか」「ChatGPTかClaudeかGeminiか」といった比較に多くの時間を使っているところもある。
しかし、EC事業者にとって本当に重要なのは、どのAIモデルを選ぶかではない。
AIモデルは交換できる。しかし、自社の業務データは簡単には作れない。
ここを間違えると、AI導入は単なる流行への追随で終わってしまう。
AIそのものは、いずれコモディティ化する
現在はAIモデルごとに性能差がある。文章作成が得意なモデル、画像認識に強いモデル、プログラム開発に向いているモデルなど、それぞれ特徴がある。
だが、企業システムを作る側から見れば、AIモデルは基本的には外部サービスだ。
今年はA社のAIを使い、来年もっと性能の良いB社のAIが登場すれば切り替える。価格が下がれば別のモデルを使う。用途によって複数モデルを使い分けることもできる。
つまりAIモデルそのものを自社の競争力だと思うのは危険だ。
それよりも重要なのが、自社にしかないデータである。
EC企業には、すでに大量の「宝」が眠っている
通販会社には日々、大量の業務データが蓄積されている。
注文履歴、商品情報、在庫数、仕入れ履歴、発送日、配送遅延、返品理由、問い合わせ内容、購入頻度、キャンペーン反応などだ。
これまでは、それらを「記録」として保存しているだけのケースが多かった。
しかしAI時代には、このデータが大きな意味を持つ。
例えば過去の受注と在庫データをAIが分析すれば、「この商品は来週欠品しそうだ」と予測できる。配送履歴を分析すれば、「この条件の注文は遅延しやすい」と警告できる。
問い合わせ履歴と購入データを組み合わせれば、「この質問をした顧客は、この商品を購入する可能性が高い」といったことも見えてくる。
AIが賢くなればなるほど、学習や判断に使えるデータを持っている企業が有利になる。
大切なのは「データを持つこと」ではない
ただし、データが大量にあればいいわけではない。
商品コードがシステムごとに違う。顧客番号が統一されていない。在庫数が実在庫と合っていない。配送情報が担当者のExcelにしかない。
この状態では、どれだけ優秀なAIを接続しても正しい判断はできない。
AI導入の前に必要なのは、実は地味な仕事だ。
受注、商品、顧客、在庫、仕入れ、配送といったデータを整理し、システム間でつなげること。そして「いつ、誰が、何を、どう処理したのか」が追える状態を作ることだ。
AI時代になって、データベース設計やシステム連携の重要性は下がるどころか、むしろ上がっている。
ECシステムは「記録」から「判断」へ
これまでの通販システムは、人間が入力し、人間が画面を見て、人間が判断するものだった。
これからは違う。
AIが注文データを確認し、異常な注文を見つける。在庫データを見て発注候補を出す。出荷状況から遅延の可能性を判断する。そして必要なときだけ人間へ確認を求める。
このときAIモデルが何であるかは、それほど重要ではない。
重要なのは、そのAIが判断するための業務データを自社が持っているかどうかだ。
弊社の製品も、この思想を軸に改善している
弊社の製品も、まさにこの考え方を軸に日々改善を続けている。
単に新しいAIモデルを搭載することを目的にするのではなく、受注、商品、顧客、在庫、配送など、通販業務の中で蓄積されるデータをできるだけつなぎ、将来のAI活用に耐えられる状態を作ることを重視している。
AIはこれからも変わり続ける。
だからこそ、特定のAIに依存するのではなく、必要に応じて最適なAIへ切り替えられる設計と、そのAIが十分に力を発揮できる業務データの基盤を整えておくことが重要だと考えている。
新しい技術を追いかけること自体が目的なのではない。
日々の業務データを資産として残し、その資産を使って業務を少しずつ賢くしていく。
弊社では、その方向を目指して製品の改善を続けている。
AIモデルは数年後には今とはまったく違うものになっているだろう。
しかし、10年間蓄積された顧客の購買履歴や、商品ごとの販売傾向、配送トラブルの記録は、他社がお金を払っても簡単には手に入らない。
だからEC企業が今やるべきことは、最新AIを追いかけ続けることではない。
自社の業務データを整理し、AIが使える状態にしておくこと。
AIモデルは交換できる。
だが、自社の業務データは交換できない。
これからのEC企業にとって、本当の資産になるのはAIそのものではなく、AIを賢く働かせるための「自社データ」なのである。
フォワード フィールド テクノロジーズ株式会社 代表取締役。 30年にわたり中小企業の業務システム・基幹システムの開発に従事。 通信販売管理システムを自社プロダクトとしてゼロから立ち上げ、約30社に導入。 一般社団法人日本生成AI推進協会 技術部長。
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