AIで誰でもSaaSを作れる時代、30年エンジニアは何で戦うのか
最近、本当にアプリを作るハードルが下がった。
少し前まで、業務アプリを一つ作ろうと思えば、データベースを設計して、画面を作って、APIを書いて、認証を考えて、サーバーを用意して……それなりの技術と経験が必要だった。
ところが今は違う。
生成AIに、
「こういう業務を管理するシステムを作りたい」
と伝えれば、かなりのところまで作ってくれる。
画面も作る。 データベースも作る。 ログイン機能も作る。 それっぽいデザインにもしてくれる。
さらに、
「このサービスの機能一覧を作って」
と言えば、立派な機能一覧まで出てくる。
WebサイトもAIで作れる。
だから、外から見ただけでは分からない。
10年以上システム開発をやっている会社が作ったSaaSなのか、昨日思いついてAIで作ったSaaSなのか。
見た目だけでは、ほとんど判断できない時代になってきた。
これは結構大きな変化だと思う。
「作れる」ということと「ちゃんと動く」は別の話
誤解のないように言っておくと、僕はAIで作られたシステムが悪いと思っているわけではない。
僕自身、AIをかなり使って開発している。
むしろ、こんな便利なものは使わない方がおかしい。
問題は別のところにある。
アプリを作れることと、業務システムを作れることは、同じではない。
業務システムを30年近く作っていると、本当に面倒なのは正常系ではないことが分かる。
注文が二重に入ったらどうするのか。
通信途中で止まったらどうするのか。
同じ処理をもう一度実行したらどうなるのか。
データが壊れたときに戻せるのか。
担当者が間違った操作をしたらどうなるのか。
仕様変更が入ったとき、過去のデータとの整合性をどう取るのか。
5年後にもそのシステムを直せるのか。
こういうものは、機能一覧にはほとんど書かれていない。
でも業務システムでは、むしろこちらの方が重要だったりする。
AIは「動くもの」を作る能力を猛烈な勢いで民主化した。
しかし、
「壊れにくいもの」 「壊れても戻せるもの」 「何年も運用できるもの」
まで自動的についてくるわけではない。
これから「見た目が立派なSaaS」は大量に出てくる
おそらく今後、SaaSはものすごい数が出てくると思う。
以前なら数百万円かかったサービスが、一人で作れる。
以前なら半年かかったものが、数週間で作れる。
開発コストが下がるから、月額980円、1,980円、2,980円のサービスも大量に出てくるだろう。
そして、既存サービスに便利な機能があれば、
「これと同じものを作って」
とAIに頼めば、似た機能を作ることもそれほど難しくなくなる。
つまり、
機能そのものの価値が急激に下がっていく。
これはソフトウェア業界にとって、かなり大きな話だと思う。
今までなら、
「うちにはこの機能があります」
が競争力になった。
これからは、その機能を見た競合が数週間後には同じようなものを実装しているかもしれない。
機能だけでは差別化できない。
では、「売ったもん勝ち」になるのか
最近、僕自身も少し考える。
もしかすると、売ったもん勝ちになるんじゃないか、と。
利用者からすると、SaaSの内部設計なんて分からない。
データベース設計が綺麗なのか。
例外処理がきちんとしているのか。
ログが残っているのか。
バックアップから復旧できるのか。
そんなことは契約前には分からない。
Webサイトが綺麗で、
「AI搭載」 「業務効率90%改善」 「簡単3分導入」
なんて書いてあれば、ちゃんとしたサービスに見える。
そして使い始めて半年後、
「なんかこれ、変だぞ」
と気づく。
でも、そのサービスを選定して、設定して、データを移行して、社員に使い方を教えた時間は戻ってこない。
だから短期的には、本当に「売ったもん勝ち」に見える世界が来るかもしれない。
ただ、僕は長期的には少し違うと思っている。
SaaSは「二極化」するんじゃないか
これから起きるのは、SaaSの消滅ではなく、二極化なんじゃないかと思っている。
一つは、大規模で完成度の高いSaaS。
Microsoft 365やSalesforceのように、自分で作るより使った方が圧倒的に合理的なものだ。
もう一つは、
AIを使って自分たち専用に作る業務アプリ。
例えば、
「社員20人の会社で、この業務だけ管理したい」
という程度なら、月額数万円のSaaSを契約して業務をSaaSに合わせるより、自社専用の小さなシステムを作ってしまった方がいいケースが増えてくる。
AIによって開発コストが劇的に下がれば、当然そうなる。
そう考えると、一番厳しくなるのはその間にいるサービスかもしれない。
そこそこ便利。 そこそこ安い。 でも自社に完全には合わない。
そんな「中途半端なSaaS」だ。
では、30年やってきたエンジニアは何で戦うのか
これは自分自身にも向けて考えている。
僕は30年近くシステムを作ってきた。
でも、
「プログラムを書くのが速い」
というだけでは、もう大した競争力にならない。
AIの方が速いからだ。
画面を作れる。
APIを書ける。
SQLを書ける。
そんなことも、以前ほど大きな価値ではなくなる。
では何が残るのか。
僕は、
「何を作るべきかを判断する力」
だと思っている。
業務を見て、
ここはシステム化する。
ここは人間がやる。
このデータは絶対に失ってはいけない。
この処理は二重実行される可能性がある。
この仕様は半年後に変更される。
この機能は便利そうだけど、実際には誰も使わない。
そういう判断だ。
30年間で身についたものは、VBやC#やSQLの文法ではなかったのかもしれない。
「システムはどこで壊れるのか」を知っていること。
こちらの方がはるかに大きな資産なのだと思う。
AI時代に価値が上がるのは「コード」ではなく「経験」
AIによって、プログラムを書くコストはこれからも下がっていくだろう。
だから僕自身も、コードを書くことにはそれほど執着していない。
AIに書かせればいい。
その代わり、
「それ、本当にその設計でいいの?」
「そのデータ、あとで困らない?」
「その仕組み、100件なら動くけど10万件になったらどうする?」
「担当者が退職したら運用できる?」
と考える。
そしてAIに作らせる。
おかしければ直させる。
もう一度考える。
この繰り返しになる。
つまり僕らベテランエンジニアは、
AIとコードを書く競争をする必要はない。
AIを使って、自分たちが30年間蓄積してきた判断力を何倍にも増幅させればいい。
これから売るべきものは「機能」ではないのかもしれない
そして、ここが一番重要なのかもしれない。
これからSaaSを作るのであれば、
「機能が100個あります」
では弱い。
100個の機能なんて、いずれ他社も作れる。
それよりも、
この業界の業務をどれだけ理解しているのか。
導入後にどれだけ改善してくれるのか。
データがどれだけ蓄積されるのか。
既存システムとどれだけつながるのか。
トラブルが起きたときに誰が助けてくれるのか。
5年後も使えるのか。
そういう部分が商品になる。
言い換えると、
ソフトウェアを売るのではなく、「業務がちゃんと回り続けること」を売る。
僕はこっちに行くべきなんじゃないかと思っている。
誰でも作れる時代だからこそ、本物が分かりにくくなる
AIによって、アプリ開発は民主化された。
これは素晴らしいことだと思う。
今までシステム会社に何百万円も払わなければ実現できなかったアイデアを、小さな会社や個人でも形にできる。
ただし、その結果として大量のソフトウェアが市場に出てくる。
良いものもある。
悪いものもある。
そして厄介なのは、
外から見ただけでは、その違いが分かりにくくなることだ。
だから僕自身、これからどう戦うべきなのかを考えている。
安さで戦うのか。
機能数で戦うのか。
開発速度で戦うのか。
たぶん違う。
僕が30年間この仕事をしてきた意味があるとすれば、
「動くシステム」を作れることではなく、 「ちゃんと使い続けられるシステム」が何なのかを知っていること。
そこなんじゃないかと思う。
AIで誰でもアプリを作れる時代。
だからこそ逆に、
エンジニアリングとは何なのか。
それが、これから改めて問われる時代になるのかもしれない。
フォワード フィールド テクノロジーズ株式会社 代表取締役。 30年にわたり中小企業の業務システム・基幹システムの開発に従事。 通信販売管理システムを自社プロダクトとしてゼロから立ち上げ、約30社に導入。 一般社団法人日本生成AI推進協会 技術部長。
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